序 ヴェトナム戦争の現在

1 発話行為


確かならざる大義のために、確かな血が流されていた。
――― ティム・オブライエン(作家)【01】

銃声がとどろいたとき、私のなかの何かが粉砕された。膝がふるえ、熱い汗が全身を浸し、むかむかと吐気がこみあげた。たっていられなかったので、よろよろと歩いて足をたしかめた。もしこの少年が逮捕されていなければ彼の運んでいた地雷と手榴弾はかならず人を殺す。五人か十人かは知らぬ。アメリカ兵を殺すかも知れず、ベトナム兵を殺すかも知れぬ。もし少年をメコン・デルタかジャングルにつれだし、マシン・ガンを持たせたら、彼は豹のようにかけまわって乱射し、人を殺すであろう。あるいは、ある日、泥のなかで犬のように殺されるであろう。彼の信念を支持するかしないかで、彼は《英雄》にもなれば《殺人鬼》にもなる。それが《戦争》だ。しかし、この広場には、何かしら《絶対の悪》と呼んでよいものがひしめいていた。
――― 開高健(作家)【02】

あらゆる量的計測は、我々がこの戦争に勝っていることを示している。
――― ロバート・S・マクナマラ(アメリカ合衆国国防長官)【03】

私は黒人であるがために前線へ出されるというよりも、教育の問題ではないだろうかと考えた。たとえば、一個師団に一万二千の兵士がいてもライフルを手にして前線で撃ち合う歩兵部隊は全体の三分の二ぐらいで、基地内の補給、通信、病院、食堂などあらゆる後方部隊としての事務、雑用などの仕事があり、事務能力などの点で劣ると見られた黒人兵が前線に多く集まるのではないかと考えた。そこにアメリカ本国での黒人の立場を見せつけられる思いだった。
―――― 石川文洋(戦場カメラマン)【04】

戦争を遂行することは容易い。しかし国家を運営してゆくことはとても難しい。
――― ファン・バン・ドン(ヴェトナム民主共和国首相)【05】

僕には興味がない アジアがアジアであることを妨げることに
――― アレン・ギンズバーグ(詩人)【06】

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【01】ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』(村上春樹訳,文春文庫,1998)p.72 【02】開高健『ベトナム戦記』(朝日文芸文庫,1990)p.168 【03】 谷川榮彦編著『ベトナム戦争の起源』(勁草書房,1984)p.214に引用。 【04】石川文洋『戦場カメラマン』(朝日文庫,1986)p.181 【05】Stanley Karnow, Vietnam: A History (Penguin Books, New York, 1983) p.9に引用。 【06】アレン・ギンズバーグ「ヴァン・ゴッホの耳に死を」〔;諏訪優『アレン・ギンズバーグ』(彌生書房,1988)所収。pp.131‐134〕より。

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